北一の全長・流域面積を誇る北上川は、岩手・宮城両県を北から南に流れ、太平洋へと流れこみます。
その河口付近には、十数キロにわたり広大なヨシ原が広がっています。
かつて、この辺りには茅葺き屋根の民家が数多くありました。地域の人びとは、身近なヨシを用いて、助け合いながら屋根を葺いていました。
高度成長期を境に、人びとの生活様式は大きく変わりました。
民家は新建材を使って建てられるようになりました。
法律の改正によって、茅葺きの家を新築することも難しくなっていきました。
全国的にみても、長年守られてきた茅場が減り、屋根の材料の調達が難しくなっています。
屋根を葺く技術を持つ職人もまた高齢化が進み、減少の一途をたどっています。
私たちの活動は、一見こうした時代の流れと逆行しているように思われるかもしれません。
しかしヨシは地域の宝です。ヨシを刈り、運び、屋根を葺くことでヨシ原と共に生きる喜びは他に替え難く、未来へ残すべき北上川の風景です。
伝統を受け継ぎながらも、私たちは新たな試みとしてススキの栽培に取り組んでいます。今までは、ススキといえば草地に自然に生え、群生しているものを刈取り、屋根材としてきました。しかし、自然のままでは品質にばらつきがあることから、より良質なものを採取するためススキの栽培に着手しました。
また、平成30年3月には弊社所有の茅場が文化庁より「ふるさと文化財の森」に設定されました。「ふるさとの森」の情報を提供することで、文化財建造物の保存修理での資材の安定的な確保を目指しています。
茅葺きの屋根を葺くのは、地元宮城の民家だけではありません。
全国各地の一般民家はもちろん、日本一大きな茅葺き屋根として知られる岩手県の正法寺など、長い歴史と伝統を受け継いできた全国の寺社仏閣や文化財の屋根も数多く葺いています。
さらに茅葺きの建物は、民話に登場するような古民家や、伝統的建造物にとどまりません。
オランダやデンマークなどヨーロッパでは、環境に配慮しデザイン性にも優れていると評価され、富裕層のステイタスシンボルとして新築されています。
新しい建築のカタチとしての茅葺きへ。
私たちもまた、本社倉庫を改築した際には、以前から親交のあったオランダの職人たちの力を得て壁面を茅で葺き、モダンな印象の建物に仕上げました。
私たちは、伝統を守りつつ将来を見据えて、皆さまに新たな提案をしてまいります。