来、人びとは身近にあるものをうまく利用して屋根を葺いてきました。
「茅葺き」という言葉でなじみの深い「カヤ」は、
ヨシのほか、ススキやチガヤ、稲わらなどを含む屋根材の総称です。
北上川には河口から10数キロにわたってヨシ原が続き、
私たちの地域ではヨシを「浜ガヤ」、ススキを「山ガヤ」と呼び親しんできました。
葦はヨシともアシともいいますが、アシは「悪(あ)し」の語感に通じるため、
私たちは「ヨシ」と呼んでいます。

「北上川河口のヨシ原」は環境省の「日本の音風景百選」に選ばれています。
川面を渡る風によってヨシがこすれ合う音は、まるで音楽を奏でているかのように聴こえます。
この北上川の河口地域は、海水と真水が混ざりあう汽水域にあたります。
塩分を含む水辺で育つため、ヨシの繊維が引き締まり、
丈夫で長持ちする良質な屋根の材料になるのです。

明治から昭和初期の河川改修を経て今の形になったヨシ原は、
そこの暮らす集落の人びとの共有の財産です。
ヨシ原の景観も、地域の人びとの手が入ることによって保たれてきました。
毎年12月から翌年3月までヨシの刈り取りをして、4月にはヨシ原に火入れをします。
こうすることで枯れたヨシが腐って不純物を出すのを防ぎます。
また火入れによってできた灰は肥料にもなります。
火入れの後、出てきた新しい芽がまっすぐ伸びて、丈夫なヨシに育つのです。

ヨシは水中の不純物を吸い上げて成長するため、川の水をきれいにする役割も担っています。
オオヨシキリなどの野鳥や、殻がべっこう色に輝く大きなベッコウシジミ、アシハラガニなど、
貴重な生き物を数多く育んでいます。

ヨシ原の手入れをすることは、こうした環境の浄化に貢献し、自然の営みを守ることでもあります。
自然と人とのつながり、人と人とのつながりを大切にして、
地域の文化を未来ある形で次の世代に伝えていくことが私たちの使命です。